NASAとの長年の連携が生み出す、革新的な自律技術
NASAとの長年の連携が生み出す、革新的な自律技術

NASAとの長年の連携が生み出す、革新的な自律技術

月面着陸船にCat®ロゴ。その理由とは―

「私たちの目標は、お客様が地球上により良い持続可能な世界を築くお手伝いをすること。キャタピラーの技術は、今やNASAとともに宇宙の持続可能な未来にも貢献しています」

Eric Reiners氏 キャタピラー社 Automation & Autonomy Program Manager

2024年1月8日、数百万もの人々が空を見上げ、United Launch Alliance社のロケット「Vulcan」の打ち上げを見守った。Vulcanの役割は、NASAの商業月面輸送サービスプロジェクトの一環として、Astrobotic社の月着陸船Peregrineを月へ運ぶこと。この期待に満ちた宇宙探査において、着陸船にキャタピラーのロゴが掲げられたことは、私たちにとって特別な意味を持つ。
 

Cat ロゴを掲げた月着陸船

「キャット・イエロー」と呼ばれるキャタピラーの黄色は、月着陸船にも最適な色だと思われるが、キャタピラーは宇宙船メーカーではない。私たちは2000年代初頭からNASAと連携し、自律走行や3Dプリンティング、ロボティクス、シミュレーターなど、さまざまな技術開発に取り組んできた。今回、着陸船に掲げられたCatロゴは、これまでの取り組みと、航空宇宙企業であるAstrobotic社を初期段階から支援してきたことへの栄誉の証である。

「世界には数多くのテクノロジー企業があるにもかかわらず、なぜNASAはキャタピラーと連携するのか?」と疑問に思われるかもしれない。その答えは、キャタピラーが長年にわたり、現場で求められる最先端技術の開発に挑み続けてきたことにある。たとえば1980年代、パソコンがまだ贅沢品で、携帯電話もほとんど普及していなかった時代に、キャタピラーはすでに自律走行する鉱山用トラックの開発を進めていた。そして現在、キャタピラーが運用する自律走行運搬トラックの台数は、世界最大規模を誇っている。
 

月面における自律技術への挑戦

  キャタピラーが長年培ってきた自律走行技術とロボティクスの豊富な知見は、NASAが2007 年に月面掘削と建設技術の開発を始めた際に、パートナーとしてキャタピラーを選ぶ決め手となった。

「NASAが月面に人類の恒久的な拠点を築くには、インフラ整備や資源へのアクセスが不可欠です」と、キャタピラーのAutomation & Autonomy Program Manager、Eric Reiners氏は語る。

「キャタピラーは地球上で、それらをお客様に日々提供しています。そんな私たちがNASAと協力し合うことで、双方の目標を達成するための技術開発を加速させることができるのです」

現在もキャタピラーのデータサイエンティストやエンジニアは、NASAチームとともに様々な技術研究プロジェクトに取り組んでおり、NASA主催のLunabotics Student Competition(月面ロボット技術の学生コンペティション)では、キャタピラーがメインスポンサーとして支援を続けている。このNASAとの継続的な連携は双方にとってメリットをもたらし、実用可能な装置技術の開発にもつながっている。

「NASAとの共同プロジェクトで彼らの課題に向き合うことは、これまで考えもしなかったような解決策に目を向けるきっかけとなっています。その結果、お客様へ新たな価値を提供できるケースも多いのです」とEric氏は話す。

また、将来の惑星探査や建設ミッションにおける遠隔操作の可能性を探るPlanetary Infrastructure Development Project(惑星インフラ開発プロジェクト)では、その成果がキャタピラーの「Cat Command ステーション」や鉱山現場での作業を支えるブルドーザの半自動運転技術などの製品設計にも生かされている。
 

月面掘削機と月面の模擬土壌

現在、NASAはキャタピラー独自のシミュレーション技術を活用し、ロボット型掘削機「In-Situ Pilot Excavator(IPEx)」の開発を進めている。このIPExは、月面への有人着陸および長期滞在による持続的な月探査を目的としたアルテミス計画の一環として、月面での基幹インフラ整備を担う予定だ。

キャタピラーでは、製品の開発段階でこのシミュレーション技術を活用し、多様な作業環境や地盤条件を仮想的に再現することで、実機検証に入る前にエンジニアがリアルタイムで問題点を特定・解決できる仕組みを構築している。

NASAは現在、この技術を応用し、実際の検証が困難な月面での作業環境をシミュレートすることで、掘削機の開発に活用しようとしている。

「私たちはケネディ宇宙センターの開発プログラムで使用されている月面の模擬土壌に合わせて、シミュレーション精度を調整しています」とEric 氏は続ける。
「NASAはこの技術を活用することで掘削機の設計精度を向上させ、多様な運用シナリオを検証した上で、実際の月面作業に臨む計画です」 

IPExの実用化は、今後10年以内を目標として進められている。
 

次への一歩

月着陸船に搭載されたCatロゴは、キャタピラーにとって長年にわたる宇宙技術への貢献を象徴するとともに、大きな誇りでもある。残念ながら今回のミッションでは、着陸船が電力を失い、計画通りの成果には至らなかったが、私たちは「試行錯誤こそがイノベーションに不可欠なプロセス」であることを深く理解している。

「宇宙開発や技術開発は決して一筋縄ではいきません」とEric氏は話す。「私たち自身、自動化や電動化の分野で数々の挑戦を重ね、時には失敗から学んだ教訓こそが、次なる進歩の原動力になることを実感してきました」

キャタピラーは今後もNASAとの連携を通じて、技術革新への挑戦を続けていく。

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