再生可能エネルギーへの転換を進める上で、風力発電の存在は欠かせない。
しかし、風力発電にも課題はあり、特に海上に設置される洋上風力発電施設では騒音による海洋生物への悪影響が懸念される。
それを解決するための画期的な技術に、キャタピラーのディーゼルエンジンが大きく関わっている。
洋上風力発電施設の建設工事では、水中での騒音が陸上と比べて最大5倍にもなる。これは単に耳障りなだけでなく、イルカやネズミイルカ※など、超音波を使って移動・回遊する海洋生物に悪影響を及ぼす可能性がある。
そうした騒音問題を解決する方策の1つに、バブルカーテンと呼ばれる空気の膜を作る技術がある。これは、風力発電施設の建設海域周辺に、水中から大量の泡を放出することで、あたかもカーテンのように音の伝播を遮断する仕組みだ。
この画期的な仕組みを実現すべく、エンジニアリング企業のScanTech Offshore 社は、エアーコンプレッサーST3100を開発した。市場でトップクラスの性能を誇るこの製品には、Cat® C32産業用ディーゼルエンジンが搭載されている。
このコンプレッサーは、海底に設置されたホースからオイルフリーの圧縮空気を供給し、海中に泡のカーテンを作り出す。生成された気泡がバリアとなり音の伝播を遮断することで、海洋生物が受ける騒音の影響を最大90% 軽減するという。同社のエンジニアリングマネージャーScott Berry氏は、「この泡の壁は、音の伝播を数マイルも遮断できる」と語る。彼が開発したコンプレッサーは、今や世界市場を席巻している。
耐久性と小型化を両立したエンジン
エアーコンプレッサーST3100の稼働には大容量の電力が必須だが、コンテナのスペースは限られているため、高出力かつコンパクトな電源が求められた。これらの要求を満たす最適な選択肢として選ばれたのが、Cat C32 産業用ディーゼルエンジンであった。
Cat C32エンジンは、温度管理と尿素水が不要なため、エンジン全体を小型化できるという特徴を持つ。その先進的な設計により、杭打ち作業などにおいて、高い信頼性と圧倒的な出力を提供している。
「Cat C32エンジンは小型のため比較的狭い設置スペースで済み、また以前のエンジンと比べて馬力を2倍以上にすることができた」とScott氏は語る。
出力が高いほど、コンプレッサーの生成する圧力も高まる。特に、海面水位の高い海域でバブルカーテンを形成するには、コンプレッサーからホースを通じて供給される空気圧力の増大が不可欠となる。Cat C32は、その効果、持続可能性、そして成果において、有効性が実証されている。
深い信頼に基づく2社の関係
ScanTech Offshore社は、25年以上前からCatエンジンを導入しており、現在では数百台のエアーコンプレッサーがCatエンジンによって駆動されている。「キャタピラーは、このクラスの馬力を持つエンジンを供給できる唯一の製造メーカーと言っても過言ではない。競合他社と比較しても、エンジンの独自性が際立ち、安心して任せられると感じている」とScott氏は説明する。
こうした信頼性と性能に加え、世界中に広がるCatディーラネットワーク、迅速な部品供給、サービス体制を評価し、同社はキャタピラーのエンジンを採用している。今後どこでバブルカーテンが必要になっても、同社とキャタピラーが速やかに対応することだろう。
※体長約2.0m以下の小さなイルカ